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第36章 英文和訳の要点
  36-1 英文和訳の基本姿勢   36-2 英文和訳の実際上の問題点とその処理
 


36-2 英文和訳の実際上の問題点とその処理


こうした姿勢で英文に向かっても、いざ実際に訳す段になると、日英両言語の相違から技術上幾多の問題にぶつかることがあります。それらをどう処理したらよいか、その主な問題点のいくつかをとりあげ、解決のしかたを考えてみましょう。

(1)
辞書と訳語の選定
英文を日本語に訳すとき、まず手に取るのが辞書、とくに英和辞書です。ところが日常使用頻度の高い語ほど訳語が多く、どれを選んだらよいか判断に迷う場合もあります。またどんな分厚い辞書を引いても、その場に適した訳語が見つかるとはかぎりません。
そうしたときは英文をよく読み返し、辞書の訳語にとらわれず、柔軟な頭で文脈に即した訳を自分で考え出すことが必要になってきます。ときには思い切って別の品詞に転換してみたり、他の言葉を添えて説明を加えることも可能です。
If people do not speak a foreign language fluently, the fault lies with themselves.
この文でfaultは前後関係から名詞であることはわかります。意味を調べると「あら、欠点、短所、過失、落ち度、・・・〔過失の〕責任、罪、・・・ 断層、傷害、故障、漏電」(研究社 現代英和辞典)などがあります。このうち文脈から考えると「責任」または「罪」が適訳といえるでしょう。全文を訳すと、
「外国語を話すのが流ちょうでない人がいるとすれば、その責任〔罪〕はその人自身にある」
1. The function of the heart is to pump blood through the body.
2. The past and the future are functions of the present.
この文はともにfunction(s) を用いていますが、文脈上@は「機能、作用」、2. は「関数」の意味にとったほうが通じるでしょう。訳は
1. 心臓の役目はポンプで血液を体中に送ることである。
2. 過去といい、未来といってもそれは現在の関数である。
2. には「・・・といい・・・といってもそれは」と原文にない説明句が入っていますが、次の文もそうした例です。
I believe in poverty as a condition worth experiencing.
 (私は(一度は)経験すべき境遇として貧乏の効能を信じている)
「貧乏」(poverty)だけよりも「貧乏の効能」としたほうが文意がもっとはっきりするでしょう。
品詞をかえて訳した方が日本語らしい表現になる例としては、
The testing of motors by this method may cause some circuit destruction.
 ( この方法でモーターをテストすると、回路を破壊する結果になるかもしれません)
があげられます。動名詞のtestingを「テストする」、名詞句のcircuit destructionを「回路を破壊する」のように、それぞれ動詞表現にかえて訳してみることもできます。
[注]
英和辞典で適訳がつかみにくいときでも、和英辞典を開いてみると思わぬヒントが得られる場合もあります。また英英辞典を調べることによって、その語の本来の意味や使い方、語感や文化的背景が理解できる場合が少なくありません。
科学技術関係をはじめ、専門用語は最近益々多く用いられるようになりました。一般辞書でも間に合うことはありますが、各分野で標準化された専門用語集が数多く発行されていますので、図書館にでも行けば利用することができるでしょう。
専門用語の訳出で注意しなければならないのは、同じ語でも分野によって訳し方が異なっていたり、類義語でも訳語が特定している場合です。
It makes a noise like a train. (それは列車のような騒音を出す)
Noise
is always present in an amplifier. (増幅器にはかならず雑音がある)
Sugar dissolves in water. (砂糖は水にとける 〔溶解する〕)
Iron melts at 1528℃. (鉄は摂氏1528度でとける 〔溶融する〕)

(2)
無生物主語の訳し方
英語では主語は人間をふくんだ生物にかぎらず、原因対結果を表すような場合にはしばしば無生物が主語になります。もっとも日本語でも「矢が飛ぶ」「石が落ちる」のように無生物が主語になる場合がありますが、それは動詞が自動詞の場合に限られています。
したがって、無生物が主語でしかも他動詞を伴った英文を訳すときには、目的語になっている生物(人間)を主語におきかえ、そのかわりに動詞を受身の言い方に変えるか、状況を表すことばを補足したほうが日本語としては自然な表現になります。
The law entitles everyone to a fair trial.
 (その法律によって、人はだれでも公平な裁判を受ける権利が得られる)
His letter reminded me of the promise.
 (彼の手紙を見て、私は約束を思い出した)
An accident prevented him from coming.
 (事故があったので、彼は来られなかった)





(3)
受動態の訳し方
英語では受動態がたいへんよく用いられます。とくに客観的な記述を重んじる実務英文・学術論文ではその傾向が強いといわれます。
これに対して日本語は行為の主体である主語をおもてに出さないことが多く(日本語の文の70%以上は主語がないともいわれます)、このためか受動態はあまり用いられません。
したがって英語の原文が受動態であっても、日本語になおすときには能動態に言いかえたほうがわかりやすい場合が少なくありません。
The materials are fed into the reactor and heated to 150℃.
 (原料をリアクター〔原子炉〕に送り、150℃まで熱する)
Lighthouses are often built on high rocks so that their lights can be seen by ships sailing far (away) from land.
 ( 燈台は、はるか沖合いを通る船からもよく見えるように、ふつう、高い岩の上に建てる)
ただし、英語の受動態はすべて能動態に直さなければならないというわけではありません。問題は日本語として自然かどうかということで、状況に応じて判断することが必要です。
He was run over by a car. (彼は車にひかれた)
The general meeting of shareholders of this company will be held next week.
 (当社の株主総会は来週開かれる)

(4)
関係代名詞の訳し方
英語の関係代名詞に相当する言い方は日本語にはありません。したがってこれを日本語に訳すことはむずかしく、関係代名詞の訳し方ひとつで翻訳の良し悪しが判定できるとさえ言われています。
それは安西徹雄氏が『英語の発想』(講談社)の中で指摘されているように、「英語は名詞を焦点にして文章を構成していく」のに対し、「日本語は動詞を中心にして文章を組み立てていく」という根本的な違いから、短い文は別として、長い修飾語句を伴った関係代名詞を「・・・するところの〜」と訳しては、ほとんど理解できないような訳文ができあがってしまうからでしょう。たとえば、
1. I have two daughters who live in Tokyo.
2. I have two daughters who live in Tokyo and are working in trading companies.
この2つの文はいずれも関係代名詞のいわゆる限定〔制限〕用法と呼ばれるもので、関係代名詞who以下の語がまとまって先行詞daughtersを修飾する構文になっています。
これを仮に直訳すれば
1. 「私は東京に住んでいる娘をふたりもっています」
2. 「私は東京に住んで商事会社に勤めている娘をふたりもっています」
となります。1. はともかくとして、2. は説明が長すぎて、意味は一応わかっても、日本語としては息苦しくなってきます。これを
「(私には)娘がふたり東京に住んでおりましてね、商事会社に勤めています」
と訳せば日本語らしく、意味も容易に理解できるでしょう。
なお関係代名詞には、この限定〔制限〕用法のほか、先行詞と関係代名詞の間にコンマを置いたいわゆる継続〔非制限〕用法があります。限定用法と継続用法とでは異なった意味を表すこともありうるので、訳し方にも工夫が必要となってきます。たとえば前掲の
I have two daughters who live in Tokyo.
は限定用法で、「東京に住んでいる娘」はふたりだが、東京以外のところにも別の娘がいることも考えられます。これに対して継続用法で
I have two daughters, who (=and they) live in Tokyo.
とすれば、娘はふたりしかいないことになりますので、「私には娘がふたりいますが、そのいずれも東京に住んでいます」のように訳す必要があるでしょう。
結局、先行詞と関係節とのつながりを日本語として無理のないように表現するコツはといえば、
1.
まず関係代名詞の格(主格、所有格、目的格)に注目し、それが係っている先行詞を確認すること。そして関係代名詞が限定用法か継続用法かを見定め、文全体の意味を正確につかむこと。
2.
意味や内容がわかったら、@の文法的制約はむしろ忘れて、大所から見おろすような気持ちで、日本語らしい自然な表現を考えてみることでしょう。そのためには、
(a)
関係代名詞が目的格として使われていてもそれを主格にかえ、関係節を受身表現にしてもさしつかえありません。
The tower that you can see over there is (the) Tokyo Tower.
 (むこうに見える塔は東京タワーです)
(b)
関係節中の「主語 + 動詞」の構文を名詞的表現あるいは形容詞的表現にかえてもかまいません。
The point from which the first runners started was the National Stadium. (第一走者の出発点は国立競技場であった)
(c)
限定用法であっても頭から訳していってかまいません。ただし限定・継続によって意味がかわる場合には、前述のように訳し方に気をつけねばなりません。
Wine comes from grapes that have to be crushed first.
 (ワインはぶどうから造られるが、まずぶどうを潰さなければならない)
The lawnmower which is broken is in the garage.
 (芝刈機のうち壊れている分はガレージに入れてある)
The lawnmower, which is broken, is in the garage.
 (1台しかない芝刈機は壊れていて、ガレージにある)
〔限定〕

〔継続〕

(5)
時制 とくに完了時制と時制の一致の訳し方
英語では動詞による時制の区別が複雑で、現在・過去・未来の三基本時制のほか、この三つにそれぞれ進行時制と完了時制がからみ、合計12の時制があります。
これに対して日本語は時制についての厳密な区別がほとんどなく、一応現在は「〜する」、過去は「〜した」、未来は「〜するだろう」とは言っても、実際はむしろ時制とは無頓着に、その場の状況や気分に応じて適当に使っています。
英語でも時制がそのまま実際の「時」とすべて一致しているわけではありませんが、日本語にはない「完了時制」と「時制の一致」についてはとくにその訳し方に注意が必要です。
(a)
完了時制について
たとえばHe has opened the window. を「彼は窓を開けた」と訳すと過去を表すことになってしまいます。完了時制を表そうとすれば、「彼は窓を開けたままにしている」または「彼は窓を開けたところです」と訳すべきでしょう。
またEnglish has been called “a language with more exceptions than rules”. も「英語は『定則よりも例外の多い言語』と呼ばれた」では不十分で、「英語は『定則よりも例外の多い言語』と呼ばれている」と訳した方が原文の意図したところをよく伝えることができます。
(b)
時制の一致について
時制の一致とは、特別の場合を除き、主節の時制が過去のときは従節の時制も過去または過去完了にする。つまり時を合わせることであることは前に学びました。たとえば、She said that she was sick. の文では、主節の動詞がsaid(言った)で過去を表しているので、従節の動詞も時制を合わせて過去形のwasを用いています。しかしこれを文字通り日本語に訳して「彼女は気分がわるかったと言った」とすると、「それまでは気分がわるかった(が今はよくなった)と言った」という意味に受け取られます。したがって、原文に沿ってその時(過去)の状態を正確に言い表そうとすれば、「彼女は気分がわるいと言った」がよいでしょう。
これは簡単な例でしたが、長文で過去形の動詞がいくつも並んでいる場合は、結論を表す動詞だけを過去的に「〜した」と訳し、他の動詞は現在的に訳した方が日本語としては自然な感じになります。また間接話法を直接話法に変えると現実感が出てきます。
The young lady said that she was a little short-sighted, but didn’t wish to wear glasses.
 ( その若い女性は、私は少し近視ですが、めがねはかけたくありませんと言った)

(6)
複数の訳し方
時制とともに、日英両国語の大きな違いのひとつに「数」に対する観念の相違があります。
日本語は概して「数」の概念が大まかで、とくに単数・複数の区別をしなくても実際上混乱を起こすことはあまりありません。一方英語では、名詞について1つ2つと数えられるもの(countable)と数えられないもの(uncountable)の区別があり、「数えられるもの」が2つ以上ある場合は複数形で表します。
たとえば、日本語で「りんごがほしい」「りんごが好きだ」をI want apple. I like apple. にしても英語国民の生活感覚には合いません。appleは「数えられる」ものであり、1個であればan apple、2個以上であればapplesとします。しかも動詞との関連もあって、I want an apple. は良くても I like an apple. では「1個のりんごが好きだ」になって意味をなさず、I like apples. と複数形にします。
こうした事情から、英語の名詞の複数形の訳し方にもいくつか注意が必要となります。
1.
複数を明示する必要のある場合は除き、基本的には単数に訳しておくほうが日本語としては自然です。
2.
文の趣旨から複数に訳したほうが好ましい場合には
(a)
名詞を重ねて「〜々」のように訳す
people → 人々 countries → 国々 towns → 町々 villages → 村々
(b)
頭に複数を表す「諸〜」などをつけて訳す
peoples → 諸国民 prices → 諸物価
(c)
名詞のあとに「〜ら」、「〜たち」、「〜がた」などをつける
children → 子どもら、子どもたち teachers → 先生がた
(d)
単位を表す語をそえて訳す
some men → 幾人かの男   ten books → 本10冊
one hundred horses → 馬100頭   twenty pencils → 鉛筆20本

(7)
人称代名詞の訳し方
日本語はまた英語と比べて人称代名詞はあまり使わない傾向があります。英語の原文にある人称代名詞をいちいち訳していると、文全体がうるさく、気障な感じを与えます。これをさけるには、
1.
意味が混乱しないかぎり、できるかぎり代名詞は省略する。
2.
he、she、it、theyなどは先行する名詞で言いかえてみると、読みやすくなります。
My daughter seems (to be) interested in English and she studies it hard.
 (娘は英語に興味があるらしく、熱心に(英語を)勉強している)

(8)
句読記号の訳し方
日本語は漢字の影響もあって、文章を句読点で区切るという観念が乏しく、せいぜい句点(。)、読点(、)、たまにダッシュ(−)ぐらいしか使いません。しかもこれについて明確な規則もなく、書く人の気分に左右されることが多いといえます。
一方英語ではピリオド(終止符)、疑問符、感嘆符はもとより、コンマ(,)、セミコロン(;)、コロン(:)、ダッシュなどかなりの句読記号があり、それぞれ一定の条件や規則があります。このため英文で句読記号に接した場合には相応の注意が必要となります。
1. The function of the heart is to pump blood through the body.
2. The past and the future are functions of the present.
(a)
コンマ(,)
英語のコンマは息つぎや思想の中断を示すものではなく(Yes, I do. No, thank you. などは一気に読む)、文の各部分の文法的な相互関係をはっきり示したり、文の意味を明確にするために使うものです。したがってコンマの有無によって文の意味が大きく変わることもあります。たとえば、
1. He was paining a portrait smoking a pipe.
2. He was painting a portrait, smoking a pipe.
この文で、1. は「彼はパイプをくゆらせている肖像を描いていた」、2. は「彼はパイプをくゆらせながら肖像を描いていた」となり、コンマのあるなしでパイプをくゆらせている人物が異なってきます。
(b)
セミコロン(;)
セミコロンはコンマとピリオドの中間ぐらいの「停止」を意味し、ピリオドで2つの独立した文に分けるには両者のつながりが近く、コンマでつなぐには意味が離れている場合によく用いられます。
これはand、but、orなどを用いないで、簡潔に両者の関係を表そうとするときに適した記号で、これによって対比が鮮明になります。訳出にあたっても、きりっとして緊張感を出せるように工夫するとよいでしょう。
I do not say that these reports are untrue; I simply say that I do not believe them.
 ( これらの報告が正しくないと言っているのではありません。ただ信じないと言っているだけです)
In ancient times, rope was made by hand; nowadays, however, it is made by machine.
 (古代、ロープは手で作られていた。だが、今日では機械で作られている)
(c)
コロン(:)
コロンはセミコロンよりは大きく、ピリオドよりは小さい「停止」を表す記号といえます。コロンは重文の節と節の間に接続詞がなく、しかもあとの節が前の節に対してその結果を述べたり、理由などを説明する場合によく用いられます。訳し方としては、2つの節の間に関係を示す適当なつなぎ言葉を入れてみるとよいでしょう。
It is growing dark: the sun has set.
 (だんだん暗くなってきた、太陽が沈んだからだ)
He has many favorite amusements: painting pictures, playing baseball, and watching movies on TV.
 ( 彼には好きな娯楽がいくつもある、〔たとえば〕絵を描いたり、野球をしたり、テレビ映画を見たりすることである)
(d)
ダッシュ(−)
ダッシュは突然の思考のとぎれを表すもので、前に述べたことを修正したり、話題を急に変えたり、あるいは強調やためらいなどを示すときによく用いられます。日本語に訳す場合は状況に合わせて適当なことばを挿入してみたり、あるいは原文通りそのままダッシュを使うことも可能です。
I wonder how long it’s been since I last saw him. Ten years maybe − no, longer.
 (彼と最後に会ってからどのぐらいだろう、10年かな、待てよ、いやもっとだ)
Health, friends, position − all are gone.
 (健康も、友も、地位も、えーいなにもかもなくなってしまった)
He is − or was − a reporter on your paper.
 (その男はおたくの新聞の記者です − と言うよりは「だった」のです)

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